プラモデルの小さなパーツを、ピンセットでつまむ。塗料を含ませた筆を近づけた瞬間、指の力がふっと抜けて、パーツがパチンと飛ぶ。
床に這いつくばって探すのは、1回目なら「面倒」で済む。3回目には「うんざり」になり、見つからないまま夜中の1時を過ぎると「もう限界だ」と思う。
英国のMetMoが送り出した「MetMo Precision Grip」は、つまんだ部品をねじで締めて固定し、手を離しても落とさない「ロックできるピンセット」だ。
1912年のレンチの仕組みを、ピンセットに移した
中心にあるのは、真鍮のダイヤルと、その下のねじだ。精密な工作機械で部品を送るのに使う台形ねじを小さくして組み込み、ダイヤルを回した分だけ先端が閉じる。ばねで挟む普通のピンセットと違い、手を離しても力が抜けない。
机に据える万力(バイス)のハンドルを回して締める動きを、ボールペンとほぼ同じ長さ(134mm)に縮めた、と考えるとわかりやすい。
先端で挟む力は、最大で約5kg(メーカー公称)。メーカーの試験では、人の手で無理なく締めて先端に約4.9kg、普通のピンセットは約2.7kgだったという。太い胴体(バレル)が横へのぶれを抑えるので、強く締めても先端の位置がずれにくい。
何が便利になる?
1. 挟んだまま置けるので、両手を塗装に使える
一度締めれば、パーツを挟んだまま机に置ける。片手で筆、もう片手でパレット、という持ち方ができ、塗り終わった面を乾かす間もそのまま置いておける。途中でお茶を飲みに席を立っても、戻れば同じ向きのままだ。
作業机の下のカーペットに、いまも行方不明のパーツが眠っている。思い当たる人もいるはずだ。
先端には細かな凹凸を付ける独自の加工がされていて、つるつるした小さな部品も滑りにくい(メーカー説明)。指で握り続けなくていいので、長い作業でも手が疲れにくい。
2. 力をダイヤルで決められるので、柔らかい部品も金属も1本でこなせる
1本の中に、挟む場所が3つある。先端は最大21mmまで開き、細かな部品をピンポイントで挟む。
シリコン製の柔らかい挟み部(最大14.7mm)もあり、力よりも繊細さが要る部品をそっと挟んで押さえられる。もう1か所、直径5.5mmまでの丸いものをつかむ部分もある。
胴体の中央にはV字の溝が3本あり、細い針金を曲げたり、立てて支えたりできる。ダイヤルで先端を少しだけ開けておけば、ばねで開閉する普通のピンセットとしても使える。ネジを仕分けるような素早い作業は、こちらのほうが早い。
はんだ付けで部品同士を押さえておく、金属の小さな部品を締めてヤスリをかける、といった力の要る作業にも向く。力の加減をダイヤルで決めるので、プラスチックを潰さず、金属は逃がさない。
3. 先端を付け替えて、机の上の小さな万力にもなる
横に寝かせて置けば、机の上で部品を固定する小さな万力になる。MetMoが以前に出した卓上クランプの台に取り付けて、好きな角度で固定することもできる。

先端(ジョー)は付け替え式で、標準、細先、ニードルノーズ(細長い先)、内側から押し広げて固定するリバース、その角度違いの5種類がある。先端は焼き入れしたステンレス製で、磁気を嫌う時計や基板の作業向けに、チタン製の先端も用意されている。
先端をうっかり傷めても、本体ごと買い替えずに済む。先端の取り付け部分の図面(CADデータ)も後日公開する予定で、3Dプリンターで自作の先端を作ることもできるという。
今使っているものと何が変わる?
これまでの選択肢は、普通のピンセットで指先に力を込め続けて最後にパーツを飛ばすか、逆作用ピンセットのばねに任せて潰れないよう祈るか、小さな部品には大げさすぎる万力と格闘するか。どれも「つまむ」と「押さえる」のどちらかをあきらめていた。
| ピンセット | 逆作用 ピンセット | 小型の万力 | Precision Grip | |
|---|---|---|---|---|
| 部品をつまむ | ○ 得意 | △ 開閉が逆 | × つまめない | ○ ばね式も可 |
| 挟んで置く | × 落としがち | ○ 保持できる | ○ 固定できる | ○ ロック式 |
| 力の加減 | △ 指しだい | × ばね任せ | ○ ねじで調整 | ○ ダイヤル |
| 持ち運び | ○ 軽い | ○ 軽い | × 重い | ○ 70〜115g |
| 値段 | ○ 安い | ○ 安い | △ 製品による | × 約1.9万円〜 |

素材は3種類。軽さ重視のアルミ(70.3g、黒のアルマイト仕上げ)、医療器具の高温滅菌にも耐えるステンレス(114.5g)、軽さと強さを両立したチタン(83.3g、先端もチタン)だ。プラスチックが中心ならアルミ、金属を扱うならステンレス、とメーカーは勧めている。
前作のキャンペーン中に生まれた、2本目の「つかむ道具」
MetMoは、英国リーズのエンジニアと愛好家の小さなチームだ。「Metal in Motion(動く金属)」を掲げ、手で回して楽しむ金属の立方体や、ドライバー、卓上バイスなどを作ってきた。
今回の元になったのは、1912年にアンダーソンという人物が特許を取ったレンチの仕組みだ。前作の小型工具「Pocket Grip」はこの機構をもとにしていたが、そのキャンペーン中に、別に開発していた仕組みと組み合わせるアイデアを思いついた。数か月の試作を経て、新しい特許として形にしたのが今回のPrecision Gripだという。
作り方には、MetMoらしい割り切りがある。「3Dプリントで試して動かないものは設計し直す」というルールを置き、細かすぎる部分は最初から採用しない。
量産向けの安い素材や加工は選ばず、少量を精密に削り出す。価格が高めなのはそのためだと、メーカー自身がページで説明している。
すべてのねじと部品まで分解して手入れでき、「200年保証」をうたう。
開発状況と信頼材料
MetMoにとって、今回はKickstarterで10件目のプロジェクトになる。これまでのプロジェクトについて、ページでは「浮き沈みもあったが、支援者を第一に届けてきた」と自ら書いている。
今回のキャンペーンは、目標13,250ドル相当に対して約57.6万ドル(達成率約4,350%)、支援者1,973人を集めている(2026年9月28日時点)。Kickstarterの編集部が選ぶ「Project We Love」にも選ばれた。
設計は完了しており、複数回のサンプル製造と試験を終えて、量産の準備ができている段階だという。部品はオランダ、英国、ベトナム、中国の工場で削り出し、リーズの自社工房で組み立てと仕上げを行う。
スケジュールでは、2026年11月に量産前の試作、12月に量産、2027年6月に発送開始の予定だ。支援者が多いため、すべて発送し終えるまでに数か月かかる場合があるとしている。
届くのは早くても約9か月後で、予定である以上、遅れる可能性もある。
価格・配送・注意点
価格は以下のとおり。
| プラン | 中身 | 価格 | 割引率 | いつまでか |
|---|---|---|---|---|
| Black Early Bird | アルミ | 約1万8,500円 (£89) | 10% | 先着 1,050個 |
| Black | アルミ | 約2万600円 (£99) | ー | 10/29の 締切まで |
| St. Steel Early Bird | ステンレス | 約2万4,800円 (£119) | 10% | 先着 525個 |
| St. Steel | ステンレス | 約2万7,000円 (£130) | ー | 10/29の 締切まで |
| Titanium Early Bird | チタン | 約3万7,200円 (£179) | 10% | 先着 300個 |
| Titanium | チタン | 約4万1,400円 (£199) | ー | 10/29の 締切まで |
| Trio KS Special | 3素材を 1本ずつ | 約7万2,600円 (£349) | 20% | 10/29の 締切まで |
| Gold KS Special | 24金 めっき | 約6万6,600円 (£320) | ー | 数量限定 (完売) |
| Craig’s List | 全部入り | 約20万1,800円 (£970) | 15% | 数量限定 (完売) |
いま選べる最安は、早割のアルミ(Black)約1万8,500円(£89)から。ただし早割はどの素材も残りわずかで、埋まると通常価格(アルミなら約2万600円)になる。
リワードの中身は本体1本(Trioは3本)で、標準の先端が付いた状態で届く。ほかの先端やチタン製の先端、本体を立てておくスタンド、革のケースは、別に用意されたアクセサリーだ。
配送は日本を含む世界各国が対象で、主に英国から発送される。日本への送料は、本体1本で約23ポンド(約4,800円)が目安とされ、個数によって変わる。金額は目安なので、支援の手続きで日本を選んだときの金額を確かめておきたい。
関税や消費税は、英国・EU・米国以外は「各国の税関に確認を」という案内で、日本で受け取る際に消費税などがかかる可能性がある。
キャンペーンの締切は2026年10月29日(木)23時47分(日本時間)。目標金額に届いた場合だけ決済される「All or Nothing」方式で、目標はすでに達成している。発送は2027年6月に始まる予定だ。
締切後のキャンセルや返金は受け付けないと明記されている。「200年保証」の具体的な条件は、ページに記載がない。キャンペーン後は公式サイトでも販売する予定だが、価格や色、アクセサリーは変わる可能性があるという。
作業机の下で行方不明になったパーツの数だけ、ため息をついてきた。Precision Gripが引き受けるのは、指先がずっと担ってきた「落とさないように握り続ける」という仕事だ。


